動機 横山秀夫


2007.3.22 硬派なミステリー 【動機】

                     

■ヒトコト感想
警察官、殺人犯、事件記者そして裁判官。本作に登場する主人公たちは殺人犯を除いて特徴的な職業についている。本作は主人公の人間性というよりもその置かれた境遇によって起こるさまざまな出来事をしびれるようなトリックを絡めて描いている。「動機」であればお堅い職業である警察官ならではの話であるし、事件記者や裁判官もその職業についているからこそ発生する悩みだ。物語の主役が人間性ではなく職業にあるということが本作の特徴なのだろう。しかし、殺人犯が主役の「逆転の夏」だけが他三作とはまた違った雰囲気に感じた。

■ストーリー

署内で一括保管される三十冊の警察手帳が紛失した。犯人は内部か、外部か。男たちの矜持がぶつかりあう表題作(第53回日本推理作家協会賞受賞作)ほか、女子高生殺しの前科を持つ男が、匿名の殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」。公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」など

■感想
現実のシビアな部分を描いている。お堅い職業の場合はちょっとしたスキャンダルが命取りであったり、一つの失敗でその後の出世にも大きく影響する。どこの企業でもあることかもしれないが、出世や自分の地位に対するこだわりというものを感じた。自分を守りたい、自分の生活を守りたい、自分の欲求するものを手に入れたい。そんな思いはお堅い職業や事件記者や殺人犯であっても皆同じなのだと感じさせる雰囲気がある。

一つだけ雰囲気が違うと感じた「逆転の夏」も、基本は自分の過去の過ちよりも現在の欲望が勝ってしまったという話だ。そこに至るまでの綿密なトリックとあっと言わせる仕掛け。驚くことは驚くのだが、メインはそこではない。恨みとも違う、人間の本質的な欲望を思うがまま表現できない人間と執念深く追い続ける人間。他三作と比べると人間臭さはものすごく感じるが、読み終わったあとはなんとも言えない嫌悪感のようなものが残った。

それぞれの短編にはその職業に就くものしか知りえない情報が多数詰まっている。単純にブラックボックスと化している部分をのぞき見るような雰囲気で新鮮な驚きはあった。

この作者の作品は初めて読むのだが、全てにおいて硬派に感じた。何をやるにしてもきっちりと筋道を通さなければ気がすまない。そして決して妥協していないようにも感じた。全ての作品から伝わってくる硬くきっちりとした雰囲気。何がそうさせるのか、お堅い職業を扱ったからだろうか。主人公の雰囲気が堅いからそう感じるのではなく、作者の文体自体にとても硬派な印象を持った。




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