2008.2.27 戦時中の異常心理状態 【出口のない海】
■ヒトコト感想
戦争、若者、恋人との別れ、そして戻れないとわかっていての出撃。これらが集まれば泣けないわけがない。特攻隊などでわりと、おなじみなのかもしれないが、覚悟を決めて出撃するという若者の心の思いを考えると確実に泣けてくる。ただ、本作は「回天」という今までにないものを題材としており、甲子園優勝投手というのも新しい。恋人との辛い別れや、野球をできない悲しさを切実に語るのかと思いきや、本作の中身は、回天に乗り戦場へ行くという部分にページがさかれている。戦争での異常心理状態であればこそありえる思想なのかもしれないが、戦地へいけずに悔しがるという気持ちは最後の最後まで理解できなかった。
■ストーリー
人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦の終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために、期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投手・並木浩二は、なぜ、みずから回天への搭乗を決意したのか。命の重みとは、青春の哀しみとは―。
■感想
大空に飛び立つ特攻隊とはまた違う人間魚雷という兵器。狭く、真っ暗で何も見えない穴倉の中でただ特攻するために回天を操縦する。そんな場面は想像しただけでも気が狂いそうになる。戦争という、国中が麻痺した感覚の中でこそありえる流れなのかもしれない。そこには当然のことながら、今の若者と変わらない姿がある。特別ではなく、本当にごく普通なだけに、回天へ乗る決意をした並木の心を最後まで理解することができなかった。
家族や恋人、そして魔球を生み出すという夢がありながら、なぜ回天へ志願したのだろうか。そればかりか、死にきれずに帰ってきたとき、なぜ、悔しがり、そして必死に最後の場所を求めていたのだろうか。生きる希望に満ち溢れているはずの並木をここまで追い込む戦争とい恐ろしさ。その異常心理状態では、どんな人間の希望さえも粉々に打ち砕き、そして、お国のために死地へ向かうという気持ちにさせるのだろうか。読んでいて非常に辛く、心を締め付けられる思いがした。
悲恋を悲しむのでもなく、戦地へ向かう仲間を悲しむのではない。なんだか本作の並木という若者はしっかりとした信念をもちながらも、どこか現代の若者に通じる、無気力感をもっているような気さえしてきた。自分の本当の素直な気持ちを、国を上げての異常な心理で覆いかぶせ、そして流されていく。本当に心の強い男であれば、愛する人のために生き、そして魔球を完成させプロ野球で活躍するという結末になってほしかった。最後の結末はあまりに寂しく、そして惨め過ぎるように感じてしまった。
この流れは泣けないはずがない。ただ、ラストの流れはちょっと意外だった。特攻隊として死ぬわけでもなく、生き残るわけでもない。ある意味予想を裏切る展開だが、後味はあまりよくない。
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