第三の時効 横山秀夫


2007.4.23 事件は現場で起きている 【第三の時効】

                     
■ヒトコト感想
事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ! なんていうどこぞのドラマを思いだすように、徹底した現場主義。捜査一課の中でお互いにライバル心をむき出しにする三つの班。普通の警察小説ならば主役の刑事がいてその他大勢がいるような形だろう。本作では短編ごとに主役が変わるのだが、別の短編では脇役としてしっかりとその役割をはたしている。読み進めていくうちに、最初は曖昧であったキャラクターがどんどんと実体をもってくる。別の短編では主役であった人物が、ある短編では主役のライバルとして登場する。現場主義ならではの、激しい手柄争い。単純な警察小説ではないのは明らかだ。

■ストーリー

殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短篇集。

■感想
短編ごとに主役が変わり、それと共に周りの脇役達も変わっていく。その中で特に印象に残っているのは捜査一課の第二班、班長だ。冷静沈着で特に女に対しては血も涙もない冷徹男。彼が大活躍する表題にもなっている「第三の時効」はまさにしびれるような展開だ。何を考えているのか分からず独断で捜査をする刑事。最後にはあっと言わせるようなウルトラCを展開し見事事件を解決する。こんな感じのキャラクターにとても魅力を感じてしまう。寡黙だが恐ろしいほど頭が切れる。そして必ずしもダントツのトップではなく、ライバルがいるというのも面白くしている要因なのだろう。

普通の刑事物ならばまったく印象に残らない登場人物も、極端な現場主義と綿密な捜査。そして極めつけは同じ組織でありながらお互いがライバル心をむき出しにして、相手と争う姿。それらを見せ付けられると、想像以上に強烈な印象を残している。最終的な目的が事件解決なのは当然のことだが、協力するのではなく、あくまで自分達だけで手柄を独り占めしようとする自己中心的なまでの考え方。たてまえの奇麗事を並べるのではないので、真に心に響くものがある。

ただ、少し残念だったのは、全てが無理やり短編で終わらせようとする部分だ。物語的にはまだまだ先は長く続きそうだが、あっさりと最後は独白の形式で終わってしまう。細かな心理描写や動機など一切犯人から語られることなく終わっている。正直「ペルソナの微笑」は短編向きの作品ではないと感じた。内容も濃く、事件の中身も複雑なので、広げようと思えば十分に長編になりうる作品だと思う。これだけがどうもばっさりと切り捨てられたような印象を受けた。

複雑なトリックというよりも、心理的駆け引きに重きを置いた作品だろう。




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