だいじょうぶマイ・フレンド 


 2008.6.1  心温まる?SF? 【だいじょうぶマイ・フレンド】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
ある日舞い降りた宇宙人は、実はスーパーマンだった。見た目はただのおじさんだが、その能力はスーパーマンに匹敵する。こんなコンジーと偶然出くわした三人の若者。心温まるファンタジーなのかと思いきや、内容は結構シビアだ。コンジーがスーパーマンであるというのも、実は勝手な勘違いであったり、コンジーの能力を狙う謎の組織「ドアーズ」であったり、SFチックではあるが、心温まるというのは感じなかった。宇宙に帰ろうと必死に練習するあたり、とてもほほえましいのだが、真実を知った後になって考えると、ずいぶんと残酷なことを繰り返していたのだと思った。スーパーマンの正体が実はただのおじさんだったというのでも十分面白いのだが、それを超える結末だった。

■ストーリー

夢と希望をのせて、異星人が舞い降りた…。超能力をもつゴンジーとミミミ、ハチ、モニカの3人の若者が世界支配をたくらむ悪のシンジケートに挑む。心温まるSFファンタジー。

■感想
体中が鋼鉄でできたコンジー。にもかかわらず空を自由に飛びまわり、怪力を発揮する。クシャミでヘリをふらつかせたり、血液はマグマのように熱い。スーパーマンの能力がそれとどこまでリンクするかわからないが、見た目はただのおじさんでありながら、隠れた能力を持つ。そして、若者にはひそかに恋心を抱かれたりもする。コンジーの生い立ちがはっきりした結末では、かなり悲しい物語だということはわかるのだが、最初の時点ではまだ、そんなことは想像しようはずもない。

コンジーの能力を利用しようとする謎の組織「ドアーズ」。本作の中ではこの「ドアーズ」絡みが一番恐ろしかった。頭にTリングを埋め込まれると、たちまちどんな人間でも、温和で柔らかな性格となる。それでいて、単調な仕事を永遠と繰り返す。これが一昔前の作品だということを考えると、作者は未来の日本人を想像して書いたのだろうか。当たらずとも遠からずという感じなのだが、へらへらと笑いながら、カニクリームコロッケの位置を箸で修正する場面など、想像するだけで恐ろしい。しかし、その部分は一番面白い場面でもあった。

本作にはリアリティはいっさいない。最初からそんなものを求めてはいけないのだろう。どんなに高いところから落ちてもしなない鋼鉄の体。鉄すらもあっさりと溶かしてしまうほど熱をもった血液。無敵の力をもちながらトマトが苦手で、故郷に帰りたがる男。村上龍お得意の、頭の中にはっきりと映像が思い浮かぶような描写。決して存在することのない物体が、あたかもそこに、当たり前にあるように感じてしまうのは素晴らしいと思う。ある意味、読者に錯覚を与える力がある作品なのだろう。

典型的なSFなのかもしれないが、自分の中ではSFよりも、社会派的なにおいを感じてしまった。



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