ビフォア・ラン 重松清


2007.8.2 現代っ子らしい 【ビフォア・ラン】

                     
■ヒトコト感想
受験を控えた、ある平凡な高校生の周りに起こった出来事。読んでいると決して平凡だとは思わないが、変に悪ぶっていながらも、しっかりと勉強し東京の大学へ行こうとするあたりは、平凡だと思った。優の周りの同級生たちも、どこにでもいそうな者たちばかりだ。そんな中で、これまた一学年に一人はいそうな不登校な生徒。腫れ物を触るように扱わなければならないまゆみに、優が翻弄される姿が本作のポイントなのかもしれない。受験という時期に起きた、一種のハプニングだが、なんだかんだ言って乗り切る優には、現代っ子の片鱗を感じずにはいられない。

■ストーリー

授業で知った「トラウマ」という言葉に心を奪われ、「今の自分に足りないものはこれだ」と思い込んだ平凡な高校生・優は、「トラウマづくり」のために、まだ死んでもいない同級生の墓をつくった。ある日、その同級生まゆみは彼の前に現れ、あらぬ記憶を口走ったばかりか恋人宣言してしまう―。

■感想
どこにでもありそうな受験生たちの生活。自分が受験生のころはどうだったのかと、単純に比較してしまう。受験シーズンになれば、しっかりと勉強し、一人だけ目標に向かって邁進するあたりは、自分と近いようにも感じた。不登校で辞めたまゆみと、幼馴染の紀子。この二人に挟まれながら、右往左往する姿は、受験生という足かせは抜きにしても、なんだかこの優という人物がよくわからなかった。定番であれば、どちらかが好きなのだが、本作にはそれを感じさせる描写がほとんどない。

妄想に生きるまゆみと、すべてを投げ出してしまった紀子。この二人に対する優の行動は、とても煮えきらず、かといって受験勉強に必死になるわけでもない。適度な勉強と、遊び、そして時間だけを消費していく。なんだかその煮え切らない姿に対して、不快に感じるかと思いきや、すんなりと納得してしまう。それは恐らく、ステレオタイプな現代っ子を表現しているからだろうか。自分が同じ立場だったらと考えると、すんなり理解できる。

本作を読めば、登場人物の誰かしらに共感できるだろう。主人公の優は、冷たいようにも感じるが、実際にはそんなもんだろう。誰も優の行動を責めることはできないし、同じ立場に立てば当たり前の行動だと思うだろう。さわやかな青春物語だとも言えるが、周りの動向に対して、受験生である優がどのような行動をとるのか。物語としては、熱く激しい主人公の方が見栄えがするのだろうが、本作のようにリアルな主人公も良いと思う。

このリアルさを共感できる人にはお勧めかもしれない。




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