アルキメデスは手を汚さない 


2007.6.25 時代を感じる貨幣価値 【アルキメデスは手を汚さない】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
東野圭吾が本作を読んで作家の道を目指したという作品。いったいどれほどのものなのか、読む前からの期待感は相当なものだった。実際に序盤から中盤にかけての青春ミステリーはすばらしいと思う。ただ、どうしても時代的なことから余計な部分が気になって、ミステリーの肝であるトリックを想像して楽しむということができなかった。時刻表とにらめっこしながらトリックを解明するあたり、昔のミステリーだなぁと感じさせる場面もある。終盤はあっけないほどあっさりと終わってしまうが、序盤から中盤にかけての引きの強さはかなりのものがある。

■ストーリー

「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。さらにクラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然!大人たちも巻き込んだミステリアスな事件の真相は?’70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。

■感想
良く考えると本作が最初に出版されたのは僕が生まれるよりずっと前だ。時代的ギャップがあるのはもちろんのことだが、今読んでもそれなりにハラハラドキドキとしながら読み進めることができるのはすばらしいと思う。ミステリーのトリックは使い古されてしまうとまったく新鮮味がなくなってしまう。本作のトリックや電車の時刻表をつかった謎解きなど、現代ではほとんど見ない手法なので逆に新しく感じた。

本作の中で一番時代を感じたのは貨幣価値だ。本作のポイントの一つでもある弁当のセリに対して、
10円単位でのやりとりは違和感を感じまくりだ。今とは違うというのは理解できるのだが、現在の価値ではいったいどれほどなのか、そのあたりがまったくイメージできなかった。

アルキメデスというタイトルと謎に包まれたトリック。一つ一つは別にたいしたことないように感じるが、全体として読むと、それぞれの出来事が絡み合って、何かとてつもなく大きな出来事が起きているような錯覚をしてしまう。この時代の高校生がどのような考えを持っていたのかわからないが、ミステリー作品のトリックとしてアジテーション的なことが描かれているのは、やはり時代のせいだろう。

現代の作品と比べると見劣りする部分もあるが、普遍的にすばらしい部分もある。古き良きミステリーとして読む分にはまさにうってつけの作品だろう。



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