天切り松闇がたり3 


2008.3.1 漫画化されてもよさそうなほど 【天切り松闇がたり3】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
目細の安吉一家の第三弾。今までどおり、安吉一家の面々がそれぞれの短編で主役となり、天切り松が語る物語。前作までの印象をしっかりと受け継ぐように、個性的なキャラクターたちが自分たちの特技を活かし、印象深いエピソードを奏でている。伝説の泥棒一家のはずだが、本作ではそれほど泥棒という印象は薄い。義理と人情に厚く、なぜか少しだけホロリとくるような話もある。淡い恋物語や固い絆で結ばれた親子関係。特にラストのエピソードでは、今まであまり語られることのなかった安吉と、その親である銀次の関係が語られている。このまま漫画になるほどキャラ立ちしていると、前から思っていたが、どうやらもうすでに漫画化されているようだ。

■ストーリー

「武勇伝なんぞするやつァ、戦をしたうちにへえるものか」二百三高地の激戦を生きのびた男はそうつぶやいた…。シベリア出兵で戦死した兵士の遺族を助ける説教寅の男気を描く表題作「初湯千両」など、華やかな大正ロマンの陰で、時代の大きなうねりに翻弄される庶民に味方する、粋でいなせな怪盗たちの物語六編。誇りと信義に命を賭けた目細の安吉一家の大活躍。堂々の傑作シリーズ第三弾。

■感想
拘置所で語る松。かならずと言っていいほど、現在のならず者たちとの比較から説教へと移り変わる。説教とエピソードが必ずしも一致しているとは思わないが、そんなことは気にならない。義理と人情に厚い安吉一家の話を聞けるとなると誰もが黙りこくってしまう。エピソードの一つ一つはそれほどインパクトのあるものではないが、キャラクターの造詣描写がすばらしく、頭の中で思い浮かべた登場人物たちがしっかりと動き回っている。

泥棒という雰囲気は多少落ちたように感じられ、その特殊技能に関しても、目新しさを感じることはなくなった。しかし、その代わりに短編ごとに特別なキャラクターが登場し、物語を盛り上げている。夢野久作や森鴎外など、現実に存在した歴史上の人物を登場させることにより、物語の厚みが増し、読むほうも目が離せなくなってしまう。実際、彼らが本作のようなキャラクターかはわからないが、少なくとも本作を読んで好感度が上がりはしても、下がることはない。

このシリーズとしてはまだまだ続くのだろうが、本作のラストのエピソードを読むと、終わってもいいような流れだ。今まで語られているのは安吉一家の面々であり、肝心要の松の話が一切出てこないのは少し気になった。どのようにして天切り松というとおり名ができるほど有名になったのか、どんな特殊技能をもっているのか、そして安吉一家はどうなったのか。もしかしたら、それらはこれから先、順々に語られるのかもしれない。

シリーズモノはキャラクターの魅力がすべてだと思う。そういった意味では本作は成功したシリーズなのだろう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp