哀愁的東京 重松清


2007.3.26 東京に住む人びとの悲しさ 【哀愁的東京】

                     
■ヒトコト感想
いくつかの短編を同じ主人公で描き、長編のような風合いを表現している。おそらく作者の実体験に基づく部分は多少あるのだろう。フリーライターという仕事が使い捨てで傭兵のような存在であり、会社組織に属さないかわりに不利な部分が多いなど、リアルに感じる部分ではある。すべてを通して進藤が描いた「パパといっしょ」という絵本が何かと関わってくるのだが、それよりもフリーのライターということでの出来事のほうが大きいように感じた。絵本作家だという必然性は感じないが、最後まで「パパといっしょ」がどんな評価を受けたのか、少し曖昧でよくわからなかった。

■ストーリー

進藤宏。40歳。新作が描けなくなった絵本作家。フリーライターの仕事で生計を立てる進藤は、さまざまなひとに出会う。破滅の時を目前にした起業家、閉園する遊園地のピエロ、人気のピークを過ぎたアイドル歌手、生の実感をなくしたエリート社員…。進藤はスケッチをつづける。時が流れることの哀しみを噛みしめ、東京という街が織りなすドラマを見つめて―。

■感想
フリーライターという仕事がどのようなものか。話で聴くよりもこうやって物語として表現された方が理解しやすい。素浪人のように激しい戦いを一人で繰り広げるフリーの生活。多少憧れるというのはあるが、その実情を知ると到底自分ではできそうもないということが分かる。物語はそれぞれ寂しさや悲しさのようなものをかすかに表現している。抗いようのない運命に流されるまま淡々と進む物語。なんだか東京という町がひどく冷たく寂しい街に思えてくる。

絵本作家というのが全編を通してあるキーワードになってはいるが、それが大きな影響を与えているかというとそうではない。過去の栄光にすがっているわけでもなく、書けずに悩んでいるわけでもない。ただ冠としてついているだけのような気がする。作品全体の印象からしても「パパといっしょ」というのがどのような物語で、評価的にはどうだったのかというのは気になるが、それが大きなインパクトを与えるものではない。

最後には東京で戦う素浪人にはふさわしい、なんだか悲しい結末となっている。哀愁的東京というタイトルどおり、結局は悲しい物語だったのだろう。人の生き死にや出会いと別れは星の数ほどあれ。東京ほどそれらに無感動で無関心な都市はないだろう。哀愁を感じるとしたら東京ではなく、東京に住む人々に対してその他の人々が客観的に感じる悲しさなのかもしれない。

全体のトーンがわりと明るめなので、そう感じないが。実際にはかなりブルーで暗い話が多い。




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