アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎


2007.2.14 絶妙なたとえ 【アヒルと鴨のコインロッカー】

                     
■ヒトコト感想
作品のストーリーとは別の部分で細かく組み込まれている小ネタ。作者のサービス精神旺盛な部分がとてもよく表れている。ところどころにちりばめられたテンポの良い会話シーンと絶妙なたとえ。作中のテンションとして気を抜く暇がないほど次々となだれ込んでくる知識。本編もさることながら、その他の部分が秀逸なので、読みはじめるとなかなかやめることができない。一点集中で強烈なインパクトを残すことはないが、全体を通してあー、楽しかったという印象を残す作品だ。

■ストーリー

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ

■感想
本作の仕掛けに引っかかるのは確実だ。ある程度ミステリーを読み慣れた人ならば、こうなるのではないかと予想を立てながら読む。ある部分ではその予想は当たるのだが、大元では大きく外れていた。まんまとだまされたといってもよい。しかしそれは嫌なだまされ方ではなく、爽快感を含んだ騙しだ。この騙しが本作のすべてではないので、たとえネタがわかったとしても十分そのほかの部分で楽しめる。

二つの時間軸で進む物語。一つは不思議で何がなんだかわからない。もう一つは少し残酷で、そしてすべてに繋がるなぞが隠されている。この二つが交互に展開するため、読み進めるテンションは終始高いままだ。現在のパートで謎が広がると、過去のパートでその謎が少しづつ解けていく。この小出し具合もちょうど良く、最後もきっちりと決着をつけているのはよかった。

作者の知識が豊富なのだろうか、それともそれを表現するのがうまいのか。普通は知りえないことを作品に絡めながら表現している。この表現の仕方がユーモアもあり、切れ味抜群で読んだ瞬間はずっしりと心に重く残る。自分が一つ賢くなった気分になる。ただ知識をひけらかすのではなく、とても
現代的でおしゃれに表現している。このさらりとしたハイセンスな部分が作者の人気の秘密なのだろう。

結末は少し尻すぼみ気味だが、いかにも新しい小説というような感じだ。




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