6ステイン 


 2008.7.21  玄人好みの映画的 【6ステイン】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
市ヶ谷、防衛庁情報局なんて言われても実感がわかないのが、平和ボケした日本人の典型なのだろう。6編の短編それぞれにこの秘密組織が絡んでくる。普段はイケイケのギャルだが臨時職員として任務にあたるサクラ。その他、タクシーの運転手だったり…。片手間にできる職業だとは思わないが、どこにでもいる普通の人がある日秘密組織の任務に携わるあたりが、なんだか妙にほのぼのとするというか、ガチガチのエリートスパイな雰囲気をだしていないのが良いのかもしれない。短編ということで、いつもの小難しさが出てくる前に、ストーリーがドンドン先へ進む。この感覚は心地よかった。この程度のウンチクと堅さが丁度良いように感じた。

■ストーリー

存在を秘匿された組織、市ヶ谷防衛庁情報局で過酷な任務に身を投じる工作員の男たち、女たち。20世紀にいくつかの「染み」を残した彼らへの、6編の鎮魂歌。いまできる最善のこと/畳算/サクラ/媽媽/断ち切る/920を待ちながら

■感想
作者お得意の市ヶ谷モノ。長編であれば濃いキャラクター設定と豊富な知識から表現される自衛隊の描写など、重厚な雰囲気の作品を楽しむことができる。しかし、読み終わるとかなり疲れてしまう。ものすごくエネルギーを使うという印象があった。それに比べると本作は短編ということもあり、それぞれが適度な短さとなっている。ただ、短いだけでなく工作員たちの苦悩の物語がしっかりと描かれており、それでいてクドくなく、さらりと終わるあたりは好感がもてる。ちょっと物足りないかなと思うギリギリのラインをついているような気がする。

多かれ少なかれ、謎の組織や非合法なことに手を染めるぞれぞれの主人公たち。男であっても女であっても、それには理由がある。私利私欲のためだけではない。本作の読後感が良いのは、主人公たちのはっきりとした性格と、ハッピーエンドに繋がる終わり方だろう。終わってみれば、実はすべてが仕組まれていたことだった、なんていう、ちょっとずるい終わり方もあるのだが、そうやって登場人物たちを幸せへ導いているので、読者としてもなんだか少しうれしくなってくるのは確かだ。

すべての短編に拳銃が登場し、生命の危険にさらされる場面もある。今の日本で、本作の状況をリアルに感じることは絶対にできないのだが、ちょっとした単館で映画を見ているような気分になってくる。ハリウッド的なドタバタアクションではなく、ちょっとしたインディーズの玄人好みの作品といえばいいのだろうか。古き良き時代のにおいも感じつつ、作者のこの手の作品に慣れ始めた一読者としては、長大な作品よりも、さらりと読める短編の方が手を出しやすいような気がした。

箸休め的な位置づけでも良いのかもしれない。



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